サイトへ戻る

【音環卒展緊急企画】

8ミリフィルム映像制作対談

インタビュー:Marty Hicks

今回の音楽環境創造科の卒展で、私の他にもう一人8ミリの映像作品を発表している音楽音響創造科修士2年のMarty Hicksさんにお話を伺いました。

Martyさんは、8ミリで撮影した映像をデジタル化して編集した映像作品で、5.1chサラウンド音響を用いた音楽制作をし、音楽的映像詩としての試みを作品にしています。

今回の修了作品《dear alma: part 1 & 2》のことを中心に、8ミリで制作したきっかけや、映像につけられる音の想像性、語りや言葉に潜在する音楽性について語ってくれました。(2018/2/10 芸大千住校舎倉庫2にて)

(よこえは「よ」、Marty Hicksさんは「M」で示します。)

よ:私は、音環で文化研究や社会学のゼミにいて、8ミリフィルムをテーマに映像制作と研究をしています。それで、今回マーティさんが8ミリ作品を出すと聞いて、この緊急企画にお誘いしました。最初に、なんで8ミリで作品を作ろうと思ったんでしょう。

M:音楽音響創造では、作曲を主にしていますが、映像などの他のメディア作品を扱ったものもやっているので、修了制作では映像作品をやってみようかなと。ずっと映画ファンで、いつか映像作品やりたいと。たまたま新宿のフリマで8ミリカメラを見つけた縁で、今回8ミリでやろうかなと思いました。

よ:Martyさんの作品見せてもらったのですが、フィルムの質感のきれいさと、当たり前ですけど音がきれいで。私がすごくいいなと思ったのは、ノイズがすごくのっているんですよ。なにか意図があるのかと、なんのノイズなのか聞きたいです。

M:まず、なんのノイズかっていうと、汚れているビニールレコードをかける時に発生するノイズがメイン。それプラス、カセットテープのノイズ。両方アナログの機械のノイズです。

で、8ミリ映像って自分にとっては不完全なものであると思っていて。ぼやけているし、汚れている感じがあるし。それを音楽の面でも反映させようと思って。個人的には、完全ではない音に興味があってそれを活用しました。

よ:8ミリは映像の質感的にもともとざらつきがあるので、そういうのと音のノイズがあっていると思いました。

M:そういうのが8ミリの魅力なんだと思います。

よ:今までって8ミリの映像作品ってつくっていたんですか。

M:今回初めてです。

よ:最初8ミリで撮るときどうでしたか。

私は2年前はじめて8ミリやったときに、いろいろカルチャーショックで。まず、フィルムが(限られた種類しか)生産されていないので、撮れないんですよ。

M:そう(笑)

よ:あと、映写機がないとダメ、現像をしないとダメ。当たり前なんでしょうけど、私は8ミリフィルムを知らなかったので。でもそこに惹かれたというか。8ミリってカートリッジ1本で3分20秒しか撮れなくて、フィルム代が5,000円くらいするんですよ(笑)。めちゃめちゃ高くって。今はスマホとかで無料で撮れるし編集もできてきれいにつくれるから、それがすごく新鮮だった。でもそれは8ミリが使われていた70年代では普通だった。そういう映像メディア環境の変化と私たちの意識が変わってきてると思って。

私の作品は、当時のフィルムの上映空間と現代のスマホでの映像視聴っていう映像メディアの変化を表していたりします。

私はそういうカルチャーショックから始まったのですが、そういうのってありませんでしたか。

M:ありましたね。現像料とか。

よ:新宿のフリマで8ミリカメラを見つけたんですよね。それまで8ミリフィルムはご存知でしたか。

M:映画はたくさん見ているので、8ミリっていう分野は知っていたんですけど、商業映画では使われないんですよね。そういうのは大抵16ミリとかでつくられる。なので、そのときに8ミリでググったら、家族の個人的な映像が出てきたし。そのカメラを買ったときに、変わったおじさんが売ってたんですけど、そのおじさんが言うには「よく芸大生がこういうカメラの使ってるよ」って(笑)。

よ:そのおじさん何者なんでしょうね(笑)。なにか芸大の8ミリ事情を知ってるんですかね(笑)。

M:適当に言ったんだと思う(笑)。

よ:私の知る限り8ミリやっている芸大生はあまりいないけど、開拓していきたいですね。フィルムないですけど(笑)。

M:でも、革命みたいなのって起こる気がする。

よ:そうなんですよね。知ってますか、コダックがまたリバーサルフィルム[i]を再販するの。

M:そう!

よ:それによって8ミリの制作もだいぶかわるんじゃないかと思います。

M:あとは、現像をどうするかっていう。

よ:今回はレトロ通販に出したんですよね。国内で唯一8ミリ現像してくれるところ。

M:世界的に見てもそんなに現像してくれるところってないんですよね。僕の地元(オーストラリア)にないと思います。ドイツにある現像してくれるところは、レトロ通販と同じくらいの値段です。

よ:今現像所がないから、8ミリで映像制作している私の知り合いは、自家現像をしている人が多くて。

M:自家現像めちゃくちゃ難しくないですか。

よ:思ったより簡単で。でも、現像所みたいに綺麗にはできないし、失敗することだってある。

自家現像はしようと思ったんですか?

M:結構前から35ミリフィルム写真を撮る趣味があって、ヨドバシとかで現像してはいて。でも、自分でも現像したいと思ってます。

よ:ぜひ一緒に現像しましょう!

今回の作品ってフィルムは何を使っているんですか。

M:ヤフオクで昔のフィルムを探してたんですけど、買ったフィルムの使用期限が1974年で。それで撮影したんですけど、映像も出るかわからないから、今回それを使うのはやめて、レトロ通販で自社制作しているシングル8を2本くらい使ってます。

M:ここ千住キャンパスの音響システムがすごい立派なので、それとそこにあるプロジェクターを使ってます。映写機を使うのはちょっときついかなって。音鳴るので。なので今回はデジタル化にしました。

よ:今の時代ってデジタルでどうにでも作れるじゃないですか。今スマホには、8ミリのカメラアプリもあって、それ使うと8ミリっぽく撮れちゃうんですよね。そんななかで、わざわざ8ミリフィルムでつくったのは理由があるんですか。

M:比べ物にならないんですよね。iPhoneで撮られたものとフィルムでは。

よ:見ていて違いを感じる?

M:はい。具体的にはわからないですけど、フィルムの質感。例えば温かみ。

あと、フィルムって実際にイメージをフィルムに写すプロセスがあるので、このモノに入ってるみたいな感じがある。

iPhoneだと実際のモノではなくて、データなので物理的な違いがある。

よ:あと、つくるときの意識の違いもあるんでしょうか。

デジタルだと、長回しで撮影してあとから編集すればいいやってなるんですけど、フィルムだと時間が限られているので撮影する前に構成を脳内で考えておく。脳内編集みたいなものがある気がして。そうすると撮影するときの緊張感が違う。

M:あとお金もかかっているから(笑)。

そういうのってある意味現代の問題。というのも、90年代以前フィルム作家とかは、フィルムが高いから気をつけながら使ったと思うんですよ。それがデジタルが出てくるとそういう意識がなくなったんじゃないかなと。

最近、写ルンですを女子高生とかが使うみたいなことがありますよね。iPhoneとかで適当に撮るんじゃなくって、どうやって撮るのかを意識して写す。

よ:フィルムで撮影すると自分の想像していたように撮れていないみたいなことが新鮮で、流行ってるところがあると思います。

データでなくてモノとして残ること、自分の想像していた映像と違うこと、あと、撮ったものを見るまでに時差があるってこと。

M:8ミリ現像に出したときは楽しみでした。

よこえさんの作品はサイレントですよね。

よ:そうです。私映像に音をつけるのが怖くて。音楽学部なので、音楽のエキスパートに囲まれているなかで、半端なものを私がつくるのが恥ずかしいのと、周りから音楽学部だからと期待されるのが(笑)。あと、映像って音に引っ張られてしまうと思うんです。

M:映像の音楽ってものすごく説得力がありますよね。

よ:そうです。だから私は音をつけられずにいます。

そのことについてマーティさんどう思いますか。

M:音って奥深いですよね。音って人の頭のなかにしか存在しないようなところがあって。実際に指定された音がないのに、頭のなかに音がある実感がある。

よ:頭のなかで鳴っている音ということですか?

M:音が鳴っていない環境で音を想像するっていうことですね。

ひとつの例としては、絵画を見るとなぜか音が頭のなかで鳴ってくる。

人によって違うんですけど、絵画の中でどいういう音が鳴っているか想像するっていう人もいるし、絵画とは関係なく音を想像する人もいるので。

そういう意味で、サイレント映画にも、我々の頭では勝手に音を想像するっていうことがある。

映写機の音って独特で、こういう8ミリの映像で想像する音は、映写機の音ではないかと。

よ:たしかに、8ミリのサイレントの音ってこの映写機の音なんだろうなって思います。

M:たまにハリウッド映画とかで、8ミリで撮ったようなシーンって映写機の音を使う場合が多い。

8ミリフィルムの雰囲気を醸し出すために。

よ:マーティさんの作品って、曲っていうよりも語りがよく出ていて。曲と語りの境界のようなものを感じました。

そういうものって意識してますか。

M:昔から、語りと言葉を音楽的に扱うことが好きで。会話自体が音楽的に聞こえる。言葉っていうのは音楽だと思ってます。

5年くらい前に、僕のデビューアルバムで声を音楽と融合して曲にしていて、それを継続してやっています。

作品に「語り」ってクレジットで入れているんですけど、語りの演奏っていう方が近い。

僕の映像のなかで語っている言語は英語じゃないですか。それは、作品を発表するのが日本っていうこともあって、英語を理解できる人って少ないんじゃないかと思って(笑)。それをあえて利用して、語ってる内容をできるだけわからないようにしています。それによって、言葉の内容よりも言葉の響きを聴いてもらえたらと。

よ:そっか!私英語できないんですけど、だから言葉の内容じゃなくて、音楽っぽく聞こえたみたいなところがあるんですね。

M:あと、英語の語りもストーリーがないわけではなくて、でもそれを編集で細かく刻んでるので、英語話者が聞いても話の流れがごちゃごちゃになる。

よ:日本でこの作品をやると、二重でわからなくなる。日本の英語コンプレックスみたいなのも反映しているんですね(笑)。

M:あと歌の人、赤い日ル女(あかいひるめ)っていうんですけど、2年前に「あうん」っていうバンドで新大久保で見てすごく感動するライブだった。そのときから知り合えたらいいなって思ってて。

で、千住キャンパスでカールストーンっていう電子音楽の人の特別講座があって、そこに赤い日ル女さんも来ていて。そこで、「2年前に見ました」って話しかけたら、喜んでくれて友達になりました。

声の可能性を広げようとしている方で、歌声っぽくない、動物みたいな声、ささやき声とかがうまくって。

ちなみに、音楽の大半は即興なんですよ。僕が赤い日ル女さんに指示を出しながら、声を出してもらっていた。それを細かく切って編集しました。

よ:例えばどういう指示を出したんですか。

M:「できるだけ長い音を出す」とか「できるだけ短い音を出す」とか、簡単なもの。あとは、「歌声っぽく」とか「音程を出さないように」とか。

録音は、千住校舎の反響の多いスタジオAと反響の少ないスタジオBでとっていて、一回赤い日ル女さんがスタジオAを歩き回りながら音を出してくれた実験もやりました。

よ:それがきっかけで5.1chサラウンドにしたんですか。どの時点でサラウンドにしようと思ったのか。

M:5.1を意識して作ったわけでなくて。いろいろな種類の声をとりました。

作品に入っている声は長いリバーブがかかっているので、スタジオAで録音したものを利用して。

よ:最初からサラウンドにしようとしていた?

M:最初から音を中心につくったので。先に完成したのが映像だった。そっちに合わせるようにつくりました。

よ:あ、もう次のマーティさんの上映の準備をする時間ですね!お話聞けてよかったです。ありがとうございました。

東京芸術大学音楽環境創造科

大学院 音楽音響創造・芸術環境創造

卒業制作・論文 修了制作・論文発表会2018

開催日時
2018 2.10(土)-2.12(月)

10日・11日 10:00-19:00
12日 10:00-18:00

東京芸術大学千住キャンパス

〒120-0034 東京都足立区千住1-25-1(北千住駅から徒歩5分)

http://onkansotsuten.com/

・Marty Hicks

修了作品《dear alma: part 1 & 2》

5つのスピーカーによるサラウンド音響を用いた、8ミリフィルムの映像作品。

発表日時:卒展全日程(2/10~13)11:30〜12:30・14:30〜15:30にそれぞれ4回ずつ上映

場所:芸大千住校舎1階音響制作スタジオ

・横江れいな

卒業作品《あおな》

70年代の映像記録メディアである8ミリフィルムを使った映像のインスタレーション作品。

作品発表日時:全日程常設

場所:芸大千住校舎1階倉庫2

 

[i] リバーサルフィルムは、撮影したフィルムが現像の工程において反転し、ポジ像を得られるフィルム。本来8ミリはリバーサルフィルムで映写されるのが一般的。